エイミー 2

こどもはいつだって素直だ。

エイミーもそんな素直なこどもの一人だった。
小さくて愛らしくて奇妙な同居人は、素直ゆえに時おりことばでぼくをどきっとさせた。だけれども、それはとても自然でかけがえのない、温かなことばだ。

いつ思い返しても、エイミーは教えてくれる。

風にそよぐ草が耳をくすぐる感覚を。
目をつぶらないと見えないものもあることを。
忘れていたことすら忘れてしまっていた当たり前を。

ぼくはエイミーと過ごした数年のできごとを綴ろうと思った。1ページずつ、大切に。



湖からほど近いところにある炭焼き小屋は、エイミーのお気に入りだ。
役目を終えて、しばらく使われていない小屋は、葉の色を変え始めたポプラやコナラの木々がつくる景色にすっかり溶け込んでいた。

日曜礼拝の後、ぼくの少し先を歩くエイミーが振り返る。
「あのねシャル、湖に行くんだけど、パンを持っていってもいい?」

「いいよ、外で食べるのかい?」
えへへとはにかんだ彼女はぼくに秘密を教えてくれた。

「あのね、ーーーーーー」


それからというもの、パンを持って炭焼き小屋に通うのはエイミーの日課になった。

自分の頭ほどある大きなパンを抱きしめ、家の前の石畳の坂を下りていくエイミーを、キッチンの窓から見送るのは、いつしかぼくの楽しみのひとつになっていて、たまに窓から顔を出して、きをつけてねと声をかけると彼女は一生懸命こっちに手を振った。

 

山の色がすっかり寂しい色になったある日、エイミーがすこしさみしそうな声で帰ってきた。

マフラーで包んだ2つのパンを持って。

「あの子、行っちゃった」

彼女があの子と呼んでいる”友人”は、きっとパンを食べていた本人だ。

「また来るかな」
エイミーは今にも泣き出しそうな顔をしている。

できもしない約束かもしれないけど、本心が心からこぼれた気がした。

「そうだね、きっとまたくるよ」