友達がいた

窓の向こうに友達がいた。

なにもない部屋に設えられた木枠の窓。

ぴったりと枠にはめられた厚いガラスは音の一つも通さなかったが、美しく透き通っていた。

僕たちの持てる、隔たりを超えるコミュニケーション手段は身振り手振りだけだった。

それでもぼくたちは"会話"をしていた。

学校の話とか、ゲームの話とか、犬の話だとか、そんなくだらない話を毎日した。

 

ある日、ぼくは友達と喧嘩をした。

些細なことがきっかけだったが、それがなんだったかは忘れてしまった。

ぼくは感情に任せてガラスを割った。何度も何度も叩いて割った。

窓ガラスには数え切れないほどのヒビが入り、窓の視界を奪った。

 

窓の向こうに友達がいた。

身振り手振りは見えなくなっていた。

エイミー 3

家の前の坂を下り、まばらに植えられた針葉樹がある道を100ヤードほど行くと、湖に流れ込む細い小川がある。

小川には一本の細い橋がかかっていて、街に出かけるときには必ずその橋を通った。

橋といってもそれは粗末なもので、川を渡す二本の丸太の間に木の板が雑に打ち付けてあるだけ、というものだった。

渡ろうとすると板がゴトゴトと鳴るものだから、エイミーはこの橋をトロルの橋と呼んだ。

もっとも、このかわいい小川にトロルはいないし、ここらにはヤギだっていないのだが、前に話した昔話が気に入ったらしい。

トロルの橋はしばしば川の氾濫によって流された。そして、そのたびに近くに住むスーおじさんによって、新しくて頼りない”トロルの橋”がかけられた。

「また新しくなってる!」
市場に向かう途中、エイミーが目を輝かせながらトロルの橋を指さした。
おそらく先週の大雨によって、小川が氾濫し、やっぱり橋は流され、やっぱり新しく架替えられたのだろう。

前の架替えから半年ほどだろうか。僕には以前の橋との違いはわからない。

 

エイミーが鼻歌交じりに飛び乗ると橋はやっぱりゴトゴト鳴った。

「トロルさん橋を通してね」
ご機嫌な替え歌が木漏れ日に響く。

何度架替えられても、この橋はやっぱりトロルの橋なのだ。

エイミー 2

こどもはいつだって素直だ。

エイミーもそんな素直なこどもの一人だった。
小さくて愛らしくて奇妙な同居人は、素直ゆえに時おりことばでぼくをどきっとさせた。だけれども、それはとても自然でかけがえのない、温かなことばだ。

いつ思い返しても、エイミーは教えてくれる。

風にそよぐ草が耳をくすぐる感覚を。
目をつぶらないと見えないものもあることを。
忘れていたことすら忘れてしまっていた当たり前を。

ぼくはエイミーと過ごした数年のできごとを綴ろうと思った。1ページずつ、大切に。



湖からほど近いところにある炭焼き小屋は、エイミーのお気に入りだ。
役目を終えて、しばらく使われていない小屋は、葉の色を変え始めたポプラやコナラの木々がつくる景色にすっかり溶け込んでいた。

日曜礼拝の後、ぼくの少し先を歩くエイミーが振り返る。
「あのねシャル、湖に行くんだけど、パンを持っていってもいい?」

「いいよ、外で食べるのかい?」
えへへとはにかんだ彼女はぼくに秘密を教えてくれた。

「あのね、ーーーーーー」


それからというもの、パンを持って炭焼き小屋に通うのはエイミーの日課になった。

自分の頭ほどある大きなパンを抱きしめ、家の前の石畳の坂を下りていくエイミーを、キッチンの窓から見送るのは、いつしかぼくの楽しみのひとつになっていて、たまに窓から顔を出して、きをつけてねと声をかけると彼女は一生懸命こっちに手を振った。

 

山の色がすっかり寂しい色になったある日、エイミーがすこしさみしそうな声で帰ってきた。

マフラーで包んだ2つのパンを持って。

「あの子、行っちゃった」

彼女があの子と呼んでいる”友人”は、きっとパンを食べていた本人だ。

「また来るかな」
エイミーは今にも泣き出しそうな顔をしている。

できもしない約束かもしれないけど、本心が心からこぼれた気がした。

「そうだね、きっとまたくるよ」

エイミー 1

「今日はどこにつれていってくれるの?」

エイミーはシチューをすくいながら言った。

 

「町の市場に行くんだよ。誰かさんのせいでチーズがなくなってしまったからね。」

エイミーは嬉しそうに、わかったと返事をした。どうやら、昨夜のできごと、チーズを買いに行かなければならない理由は忘れてしまったらしい。

 

「いいかいエイミー、もうチーズをお風呂に持ち込んではだめだよ」
「どうして?」

 

「どうしても!」

 

 

マルシェが好きだ。

この喧騒は、みんな生きようとしているそんな音だ。
ここでは生きるためのものはなんだって手に入る。
新鮮なお肉や野菜、今朝焼いたパンや外国の絨毯だって!
もし一日がもっと長ければ、きっと時間を忘れて歩き続きてしまうだろう。

とはいえ、人いきれに包まれたマルシェで大勢の人ごみをかきわけながらエイミーの手を引くのは骨が折れる。

「シャル、ねえシャルってば」
力の抜けた手を引かれながら、エイミーがぼくの名前を呼ぶ。

「ごめんごめん、夢中だった」
足を止めると、エイミーは眉を下げて、やれやれという様子で言った。

「だめだよシャル、ちゃんと後ろも見ないと」

またブログをはじめました

何度目だろう。

 

わたしはこれまで幾度となくブログというものにチャレンジしてきた。

技術系ブログ、写真ブログ、日記ブログ、趣味のブログ、ネタブログ。

しかし、どうもこれが続かない。

飽き性なのか、向いていないのか。

これまでに書いたいくつかの記事を見返していると、自分の文の稚拙さや内容のくだらなさに嫌気が差してきて、ブログそのものを消してしまうのである。

何度もそんな事を繰り返しているうちに、とうとうブログというものが少し嫌いになってしまった。

 

モチベーションというやつは自然に減っていく。

ブログもそうだ。はじめた瞬間から執筆意欲は減衰をはじめる。

ブログを続けている誰もがモチベーションを保つ方法を模索していることだろう。

ある人は広告収入、ある人は読者からの励まし。そしてある人は自己研鑽のため。

そのどれもが、ブログを始めてしばらく書き続けた者にのみ与えられるイベントだ。

そして、記事の内容や書き手の能力によって、このイベントの発生タイミングは変わってくる。

 

今度はどうだろう。

久しぶりに湧いてきたモチベーションによって開設されたこのブログ。

わたしは1度目のイベントに出会うことができるだろうか。